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3-10 それぞれに迫りくる泥沼 2

last update Last Updated: 2025-06-21 20:06:23

「二階堂社長、その話……本当ですか?」

「ああ。あくまで噂だが、何でも会長は体調不良気味で休養を望んでいるらしい。次期会長には現社長がなるが、次の社長をそろそろ決めるらしい。今までは鳴海翔が社長になると誰もが思っていたが……もう、そうも言ってられなくなってきたようだな」

二階堂は食事を終え、口元をナフキンで拭いた。

「今の新しい社長候補は鳴海翔と……」

二階堂の言葉の後に琢磨は続けた。

「各務……修也……ですか?」

「そうだ。今頃は鳴海グループは大変な騒ぎになっているかもしれないな?」

二階堂はにやりと笑った。

「と言うことは……ひょっとすると翔が帰国してくるのも……そろそろなのかもしれない……」

琢磨は得体のしれない胸騒ぎを覚えるのだった――

****

 同じ頃、航は父に事務所に呼び出されていた。

弘樹は神妙な面持ちでデスクの前に座っている。長椅子に座った航は尋ねた。

「何だよ、俺に話って。もしかして依頼人が何か文句でも言ってきたのか? だけど俺は金曜日の張り込みは問題なくやってるからな?」

「いや……その話じゃない。別件だ」

「別件……何だよ?」

「実は…昨日、美由紀さんから連絡が入ってきたんだよ」

「え……? 一体どんな要件だったんだよ!?」

「DV相談だ」

「は?」

「美由紀さんは……今DV被害で苦しんでいる」

弘樹の言葉に航は耳を疑った。

「……何だよ! そのDV被害って言うのは? 誰からだ?」

航は興奮気味に尋ねた。

「いや……相手は美由紀さんの恋人だ」

「え?」

耳を疑う航。

「DV相手は……美由紀さんの新しい恋人だ」

淡々と語る弘樹を前に航は信じられない気持ちだった。

「う、嘘だろう? 美由紀に新しい恋人が出来ていて……その男からDVを受けているっていうのか?」

「ああ。俺もその相談を聞かされた時は正直驚いた。しかもよくよく話を聞いてみると……この事務所を訪れたすぐ後に付き合うことにしたらしい」

「は? 何だよ、その話は……」

「おそらく美由紀さんは新しい恋人ができたから朱莉さんの調査依頼を取り下げてきたのだろうな……。ところが今度は新たにその男からのDVで苦しんで連絡を入れてきたんだよ」

「……っ」

琢磨は唇をギュッと嚙み締めた。

「最初は警察に相談したらしいんだが……相手は暴力ではなく精神的暴力で美由紀さんを追い詰めているようで、あまり相手にし
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-9 それぞれに迫りくる泥沼 1

     翌朝7時――明日香が朱莉のマンションの部屋の前に立っていた。「それじゃあ、私長野へ帰るわね」「明日香ちゃん……本当に長野へ帰っちゃうの……?」蓮が寂し気に明日香を見上げながら尋ねる。「大丈夫、またすぐにこっちへ戻ってくるから。長野のお家を片付けたら今度はずっとお隣さんよ」明日香はニコニコしながら蓮の頭を撫でる。仲良さげな2人の様子を朱莉は寂し気に見つめていたが、顔をあげて明日香を見つめた。「明日香さん。お気をつけて行ってらして下さい」「ええ、それじゃ2人とも、またね。来週にはまたこっちへ戻ってくるから」明日香は手を振ると部屋から出て行った。――バタンマンションのドアが閉じられても、蓮はじっとドアを見つめていた。「蓮ちゃん? どうしたの? 朝ごはん食べないの?」朱莉は蓮に声をかけ、ハッとなった。蓮の目に薄っすら涙が浮かんでいたからだ。「蓮ちゃん……」すると蓮は両目をゴシゴシこすり、朱莉を見上げて笑った。「お母さん、ごはん食べる!」それはまるで泣いてる顔を見た朱莉を心配させまいとしているようだった。「お母さん、今日の朝ごはん何かな?」「え、えっと……三角おにぎりとタコさんウィンナーに卵焼きと具沢山のお味噌汁よ」「うわーい、おいしそう。早く食べよっと!」蓮は駆け足でダイニングキッチンへ向かう姿を朱莉は寂し気に見つめる。(蓮ちゃん……あんなに明日香さんを慕っているんだ……私はそろそろ用済みってことなのかな……)朱莉は暗い考えに囚われるのだった――**** 蓮を幼稚園に送り出た後、朱莉は家事を済ませると明日香から返してもらったマンションの部屋の鍵を持って翔の部屋へと行った。換気の為に部屋の窓を開け、明日香が今まで使っていたシーツカバーと布団カバーを洗濯機に入れて、バルコニーに布団を干した。その後部屋の掃除を行い、洗濯を干し終えた頃にはすでにお昼近くになっていた。「ふう……さっぱりした。明日香さんは来週からずっとここで暮らすわけだから綺麗に片付けておかなくちゃね」そして朱莉は戸締りをするとマンションへ戻り、昼食の準備を始めた――****14時――二階堂と琢磨は社員食堂の窓際席で2人で向かい合って遅めの昼食を取っていた。食堂の中は昼休みの時間を過ぎているので、社員の姿は誰もいない。二人きりである。「どうだ、九条。

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-8 航と琢磨の恋ばな 2

    「そう言えば、朱莉さんと映画館で会ったって言ってたが……朱莉さんは1人で映画館に来ていたのか?」「いや、男と来ていたんだよ。そうだ……そのことをすっかり忘れていた!」「何? 男と来ていただって? だ、誰だ! その男は!」琢磨は興奮気味に航に問い詰める。「名前は各務修也って言ってたな。鳴海翔によく似ていた。いとこだって言ってたな……」「各務……修也……。やっぱり……」琢磨は茫然とその名を呟いた。「え? 琢磨、お前……ひょっとして各務修也って知ってるのか?」「ああ、知ってるも何も……今の鳴海グループの副社長を務めているんだよ。翔の代理でな。それに……今日朱莉さんに電話を入れたら、各務修也と一緒に家具を買いに幕張まで行ってたんだ……」その話を聞き、航の顔は青ざめるのだった――**** 20時―― 朱莉はソワソワしながらダイニングテーブルの椅子に座り、蓮が帰宅するのを今か今かと待っていた。明日香からの連絡では19時半には帰ると言われていのに、すでに時刻は20時になろとしている。「蓮ちゃんに明日香さん……大丈夫かな? ひょっとして何かあったんじゃ……?」朱莉は落ち着かず、時計ばかりを気にしていた。その時――――ピンポーンインターホンが部屋に流れた。「蓮ちゃん!?ガタンと音を立てて椅子から立ち上ると、朱莉は急いで玄関へと向かい、ガチャリとドアを開けた。「お母さん、ただいま!」すると足元には元気な蓮の姿がそこにあった。「お帰りさない、蓮ちゃん!」朱莉は思わず蓮を強く抱きしめると、明日香から声がかけられた。「ごめんなさいね。朱莉さん。遅くなっちゃって」明日香が謝ると蓮が小さな紙のバックを朱莉に差し出してきた。「お母さん、はい、お土産」「まあ……私に? 何かしら?」朱莉は紙バックを受け取ると蓮を見た。「あのね、チョコレートなの!」蓮が嬉しそうに言う。「え? チョコレート?」朱莉は紙バックを広げてみると、そこには可愛らしい魚の絵が描かれた丸い缶が入っていた。「お母さん。チョコ好きでしょ? だからお土産を買ってきたの。食べて?」蓮はにこにこしながら朱莉を見た。そんな蓮を見て朱莉の胸が熱くなる。「ありがとう、蓮ちゃん」朱莉は笑顔で蓮の頭を撫で、明日香に尋ねた。「明日香さん、お食事は済んだのですか?」「ええ、大丈夫。

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    「航、今の話は何だ? あ……そう言えば、お前確か彼女が出来たんだよな? まだ続いているのか?」琢磨はお新香に手を伸ばしながら尋ねた。「いや……別れたよ」ビールを飲む航。「ふ~ん。だいぶ前に別れたのか?」「いや、本当につい最近なんだ……。美由紀と別れたのは」「美由紀って名前だったのか。でもつい最近ってそれまではずっと同じ女性と付き合っていたってことだろう。まあ長く付き合っていればいろいろあるよな」「俺が悪かったんだ……」航はグラスを握りしめた。「航? どうした?」「朱莉に……再会してしまったから……」航の言葉に琢磨は眼を見開いた。「な、何? 朱莉さんか!? お前もまだ朱莉さんのことが好きだったのか!?」「何だよ! お前までって……まさか琢磨も朱莉のこと忘れていなかったのかよ!?」「ああ、そうだ。俺はなあ……オハイオにいた間も朱莉さんを忘れたことはなかったぞ?」何故か勝ち誇ったかのような言い方をする琢磨。「う……うるさい! 俺だって朱莉と再会するまで気づかなったんだ! こんなにも朱莉のことが好きだったなんて!」ダンッ!航は乱暴にグラスを置いた。「「……」」2人は暫く無言でにらみ合っていたが、やがて琢磨は肩をすくめた。「……やめよう。酒がまずくなる。折角久しぶりに再会したっていうのに」「そうだな」航は溜息をついた。「それで? どこで朱莉さんと再会したんだ?」「美由紀と……2人で映画館へ行った帰りに……偶然……」「映画館で朱莉さんと会ったのか?」「ああ……。それで思わず強く抱きしめてしまって……」「はあ?」航の言葉に琢磨は間の抜けた声を出した。「お、おい……お前まさか彼女と映画に一緒に行ったのに……その彼女の前で朱莉さんを抱きしめたのかっ!?」「仕方ないだろう!? 気が付いてみたら身体が勝手に動いてたんだから……」最後の方はしりすぼみの声になってしまう。「はあ~……それは彼女、傷つくな……」琢磨は頭を押さえながらため息をつき、航は俯いたまま返事をしない。「それで? 結局別れたのか?」「あ、ああ……俺が別れを言う前に美由紀が気づいて、自分は捨てられるんだろうって聞かれて……俺は何も言えなかった。……そして合い鍵を返したんだ」「その彼女はお前に合い鍵まで渡していたのか? そこまでするのはよほど相手がお前

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-6 久しぶりの再会 2

     14時――朱莉は修也を玄関先まで見送りに出ていた。「各務さん。今日はお休みのところ色々ありがとうございました」「いいんですよ、どうせ暇だったんで。それより蓮君のあの本棚を見た時の反応が今から楽しみだな」修也は笑顔で朱莉を見る。「はい、そうだ、蓮ちゃんの素敵な表情カメラで撮ったら送りますね」「本当? それは嬉しいな。それじゃ、僕は帰りますね。お母さんによろしく伝えてください」「はい、伝えておきますね」修也は玄関を開けた。「それでは失礼します」「はいお気をつけて」そして玄関は閉じられた。修也が帰ると、たちまち部屋の中は静かになる。「ふう…」…朱莉は溜息をつくと、後片付けを始めた――**** 17時――「ほんと、いきなりの呼び出しだったから驚いたぜ」上野にある焼き鳥居酒屋でお座敷席に向かい合って座るのは航と琢磨である。「まあ、いいじゃないか。こっちは帰国早々トラブルに見舞われて大変だったから、少しくらいは愚痴を言わせてくれよ。ほら、おごってやるから好きなもの頼め」Tシャツにジーンズ姿の琢磨は航にメニューを差し出した。「それにしても……琢磨は変わったよな?」メニュー表を受け取りながら航は琢磨を見た。「変わった? どこがだ?」「服装だよ。以前ならTシャツにジーンズなんて姿見せたことなかったからな」かくいう航もTシャツにジーンズ姿である。「それはな……何年もアメリカに住んでると周りに感化されるんだよ」「へえ~やっぱりアメリカじゃ大体そんなスタイルなのか?」航はメニュー表を眺めながら適当に相槌を打つ。「ああ、そうだ。大体年老いた男性だってだなあ……」琢磨の話の途中で航は手をあげて店員を呼んだ。「すみませーん。注文いいですか?」「お待たせいたしました、ご注文は何でしょうか?」すぐに大学生くらいの若い男性店員がハンディターミナルを持って現れた。「えっと……生ビールジョッキ2つと、枝豆、焼き鳥盛り合わせ2皿と、手羽につくね……軟骨唐揚げに山芋焼きとお新香お願いします」「はい、かしこまりました!」店員が去ると琢磨は顔をしかめた。「おいおい……。お前、そんなにたくさん頼んで食べれるのかよ?」「ああ、別に問題ないね。大体俺の仕事はある意味肉体労働に近いからな。最低でもこれくらい食っておかないと体力が持たないんだ」

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-5 久しぶりの再会 1

    「各務さん、すみません。お待たせいたしました」朱莉がレジに向かうと、修也は大きなカートを持ってレジの近くに待機していた。「電話終わったの?」「はい、九条さんからだったんです。でも今各務さんと幕張の家具屋さんに来ていると言ったらすぐに切れてしまったんですよ」それを聞いた修也が驚いた。「え!? 電話の相手って……九条さん?」「はい。そうですけど?」すると修也が考え込み、ポツリと呟く。「そうか……まずかったな……」「え? 何がまずかったんですか?」「あ、いや。何でもないよ。こっちのことだから朱莉さんは何も気にしないで。それじゃ会計しましょうか?」「はい、そうですね」朱莉は頷いた――**** その頃、琢磨は二階堂が探してくれた新しいマンションに帰ってきていた。気を利かせたつもりかどうかは分からないが、場所は六本木だった。初めて二階堂から新居のマンションの場所が六本木と聞かされた時、朱莉の自宅が近いので琢磨は浮かれていた。二階堂から「頑張れよ」と言われたこともあり、これからは頻繁に朱莉に会えるだろうと思っていた矢先に、帰国してみれば朱莉の傍に各務がいたのだ。「折角翔がカルフォルニアに行って不在だからチャンスだと思っていたのに……。全く……俺は一体何やってるんだ?」1LDKのまだ家具が何も揃っていない広々とした部屋にごろりと寝転がり、琢磨は天井を見上げた。「家具なら…俺だって買いに行く用事があったのに……。いや、むしろ俺の方が家具屋についていくのに適任だったはずだ。それにしても……各務さんもひょっとして朱莉さんのことを……?」そう思うといてもたってもいられなかった。琢磨の中ではもう確信に近いものがあった。恐らく朱莉の初恋の相手は修也なのだろうと。(朱莉さんが各務さんの正体を知れば、ますます俺が不利になるのは確実だ。折角隠し子疑惑から解放されたのに、よりにもよって今度は朱莉さんの初恋相手が現れるとは……)「はあ~」深いため息をついて、ゴロリと一回寝返りを打って琢磨は起き上がった。「そうだ……航に連絡を入れてみるか。多分アドレス変わっていないだろう」そして琢磨はスマホをタップした――**** 朱莉と修也は家具を買って朱莉の住むマンションへと戻ってきた。修也は本棚を組み立てており、朱莉は2人のお昼を作っていた。「各務さん。お食

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